チャットを覗くと不毛な口論をよく目にする。言い合いをしている者らに討論スキルの基礎が欠けているようである。
そこで、修辞学(弁論術/レトリック)の基礎を書いておこう。少し意識するだけで多少は弁論スキルが向上するはずだ。
まずは憲法訴訟を専門とする弁護士に不可欠な必須スキルから紹介しよう。
……と、その前に基礎の基礎を何点か挙げる。
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① 討論は相手を言い負かすことが目的ではない。真理の究明にある。
② ディベートは意味がない。弁論が下手になる。推論の基礎を学ぶべき。
③ 意見・主張・推論には、必ず根拠を持たせること。(一時的な感想にも実は根拠がある)
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それでは、最強の論破の型を紹介しよう。
ひとことで言ってしまえば、
「相手の論を採用しても、その目的などを達成できないことを突きつけること」
といえる。
つまり、
主張Aと主張Bが対立するとすれば、自分は当然に主張Aを述べるけれども、相手が述べる主張Bを「採用したとしても」主張Aが優れている/採用すべき/正しい/矛盾がないなどと述べることだ。
討論の基本は、相手の主張の根拠を崩し、自分の論の正当性を述べること。
ただ対立する意見を併存させるだけでは意味がないのだ。
修辞学の先駆者:香西秀信 氏がディベートに否定的なのはこれが理由である。
「他人の意見にも耳を傾け尊重しましょう」などという”お道徳”(傾聴)は対人関係では重要だろうが、推論の世界で持ち込むべきではない。
※誤解を招かないように添えておくが、相手の論や根拠の正しさの検証を全否定しろという意味ではない。たとえば、宇宙論でインフレーションを提唱した佐藤勝彦氏が「インフレーションは起きたんだ。でも、あなた達の言うとおりビッグバンだけだったかもしれない」などと言っただろうか?笑
「なるほど」と理解しただろうが、やってみると難しいことがわかるはずだ。
相手の主張の根拠を崩す、と言われてみれば簡単だが、そのためには、まず、前提を見抜かなければならず、そのためには論理的思考のみならず批判的思考も必要になる。
専門的には、推論の議題によっては、ただ見えている前提だけでなく、「隠れた前提(アサンプション)」まで見抜く必要もある。
たとえば、人権、自由、社会問題、など多数派によって支持されているものを、常識や価値観から崩さなければいけないものを論じようとすれば、この能力は必要不可欠だ。
なかなかイメージができないだろうから、少し「相手の論(根拠など)を採用する」ことをやってみよう。
最近、Twitterなどで騒がれた「赤いきつねのCMがエロい」を議題に設定したい。
(わかりやすく対立意見を男と女にしておく)
まずこのCMの是非はともかく、
女:「CMがエロい。」=CMとしてふさわしくない
男:「CMはエロくない。」=CMとして問題ない
で対立しているようだった。
僕は男だし、あのCMを観たところ、別にエロさや性的な表現があったとは受け取らなかった。
男「CMはエロくない」の立場を取ろう。
だとすれば、CMがエロくない理由・根拠を添えて、「あのCMのどこがエロいんだ。エロくないじゃないか」と激論を交わすのだろう。
さて、簡単にだが「相手の論を採用する」ことをして、相手の論を崩してみよう。
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~前半省略~
これらの理由でCMはエロくない。
そもそも、赤いきつねのCMが「エロい/性的な表現を用いていた」としても問題がない。
CMとは本来、全国的にテレビで放送される性質を持つ。
「性的な表現がされた」のであれば、そのターゲットは男であろう。
統計局の統計によれば、男女の人口が、男が約6,211万人、女が約6,482万人である。
すなわち、「CMがエロかったとしても、日本の人口の約半分には影響を与えている」ことになる。
CMのうち、人口の半分にアピールするCMなど他にあるだろうか?
車のCMは車を購入しようとする者へのアピール、といった具合に、特定の範囲に対する影響力がほとんどであろう。
また、男はたいてい「エロ」に関心が強く、影響を受けやすい。
だとすれば、人口の半分という広範囲にまでアピールできたCMは、広告として大成功だと言わざるをえない。
よって、赤いきつねCMはエロくないし、エロかったとしても何も問題はない。相手の主張は誤りであり採用すべきではない。
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だいぶイメージが湧いたように思う。このように論じるといいだろう。
あくまで一例であって、他にも色々なテーマや推論のしかたがあるはずだ。
相手の論を採用しても成り立たない、というのは、すなわち相手の根拠を崩さなければできない。
そう心がけることで、世の中のすべての推論に対し、前提を見抜くことに敏感になり、また、根拠となる情報の正しさに敏感になれる。
上の赤いきつね論でもわかるとおり、対立した相手を言い負かすことに意義がないことがわかるはずだ。
その場で相手が言い返せなくしたところで、そんな事にはなんの意味もない。
たとえ討論で負けたとしても、真実の発見があったならば、それでいいのだ。
主張する人の数の多さ(衆人に訴える論証)、立場や権威や支持のの強さ(権威に訴える論証)などの詭弁を用いるのではなく、
正しい推論を交わすことによって議論・討論をおこなえるようになろう。
※支持者の数や権威によって正当性が決まるなら、今でも天動説は正しく、民主的な立法を経た法律も必ず正しいことになってしまう。
正しい思考・推論ができるように日々研磨していきましょう。
( ̄ー ̄)bグッ♫
以上。